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【テニプリ・跡部】AfLW 番外編

第1章 happily ever after





空港から住み慣れた街に戻ってきた私は、両親に荷物を預け、その足で氷帝を訪れていた。真っ先に訪れたのは、中等部の音楽教諭室。何としても、お礼が言いたくて――アポはとっていなかったけれど、年中無休に近いテニス部の顧問なのだから当然と言うべきか、榊監督はそこに居た。


「カントク、松元です!」
「よく帰った、松元」


労をねぎらう様に、ぽんぽんと肩を叩かれ、擽ったい気持ちになる。監督が背を押してくれなかったら、こんな体験はきっとできなかった。

この一年間は素晴らしい物で、私は多くの経験をした。間違いなくこれからの糧になっていくに違いないし、行ったことへの後悔は微塵もなくて。


「高等部のテニス部にもたまに顔を出している。またそこで、君の成長を感じられるのを楽しみにしている」


いってよし!と、少しの世間話のあと送り出された。そこで高等部のテニス部は今日は休みだと聞いている、なんて情報を得てしまって。私の複雑な気持ちは少しばかり落ち着いた。


「決して逃げてるわけじゃないんだ、けど」


そう、無いんだけど、ね。過去を巡るように、ゆっくり中等部の校舎を、そしてテニスコートを見て回る。そうか、一年経ったってことは、ヒヨやちょた、樺ちゃんも此処にはもう居ないんだな。

中には入らず、遠目に練習を少し見守って。誰かが氷帝コールを受け継いでるのかな、なんて考えると笑えてくる。



「逃げてるわけじゃないけど、今度あったら答えを言わなきゃダメなんでしょ?」


一人暮らしをすると、独り言が増えるのは本当だった。ぼそぼそとこれまでの道程をおさらいしながら歩く。返事は一年後でいい、って言われた。一年後は今。跡部に会う=気持ちを伝えるって事でしょ?

自分の気持ちを、跡部の気持ちを疑いたく無いけれど。一年って短い様で長い。この一年の間に、跡部は数え切れない程沢山の人と会って、色んなことをしてる筈なんだ、私がそうだったように。

一年前の決意は、盛り上がった気持ちは何処へやら。膨らみ過ぎた気持ちが、また胸を圧迫して、すっかり気弱になってしまっている。


でも、そうだ、高等部に行ってみよう、と思い立ったのは、今日は高等部のテニス部は休みだ、なんて監督の情報有りきの行動に違いなかった。

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