第1章 Kissからはじめよう
【智side】
目の前が真っ白になるほどの快感とともに、体の奥に翔くんの熱い迸りを感じて。
直後、崩れるように倒れ込んできた彼の逞しい体をぎゅっと抱きしめた。
肩で大きく息をしながら、それでも俺の背中に手を回してくれる。
汗に濡れた肌が、隙間もなくぴったりと密着して。
不意に、涙が込み上げてきた。
「翔くん…好き…」
零れ落ちた言葉にぴくんと震えた翔くんは、俺の腕を解くとガバッ勢いよく起き上がり、俺の中から出ていった。
「あっ…」
出て行く瞬間、寂しさと切なさが俺を呑み込んで。
こっちを見ようともしないでゴムを処理する背中に、思わず縋りついた。
「翔くん…好きなの…ずっと翔くんだけが好きなの…」
俺が何度も繰り返しても、翔くんは固まったように動かない。
さっきまで火を噴きそうに熱くて、感じたことのない幸福感に包まれていた体が、急激に冷めていく。
「大好き…好きすぎて、死んじゃいそう…」
「…智くん、俺…」
大袈裟に告げた俺の言葉に、ようやくこっちを向いてくれた翔くんの瞳は、さっきまでとは違いゆらゆらと揺れていた。
彼の心の中を示すように。
「…正直さ…よく、わかんないよ…自分が智くんのこと、どう思ってるのか…つい勢いでここまで来ちゃったけどさ…この気持ちが、智くんと同じかどうか…」
「それでもいいっ…」
しどろもどろに言葉を紡ぐ翔くんを遮って、無理やり自分の腕の中に閉じ込める。
「同じじゃなくてもいいっ…少しでも、俺のこと思ってくれるなら…例え恋人の好きじゃなくても…傍にいて…?俺と付き合ってよ…」
「でも、それじゃ智くんが…」
「いいんだ…翔くんが傍にいるだけで、幸せなんだから…」
「…智くん…」
だって、絶対手に入らないと思ってた翔くんが、今ここにいるんだもん。
手放すなんて、できないよ…
「お願い…」
懇願めいた俺の言葉に、考え込むように黙り込んで。
どれくらい、そうしていたんだろう…
もうこのまま、石になっちゃうんじゃないかと思えるような、長い時間。
「…わかった…」
ぽつんと落ちた言葉とともに、翔くんの腕が俺の背中に回ってきた。
「本当にいいんだね?俺、こんな中途半端な気持ちでも」
確認するように囁かれて。
「うん…」
頷くと、俺を抱きしめる腕に、力が籠もった。