第6章 Hung up on
【潤side】
「あれぇ?課長と大野さんじゃん!奇遇だねぇ」
翔さんの後ろから声を掛けると、大野さんがあっ!って顔した。
「なんだ、おまえらもいたのか」
翔さんは振り向いて、その大きな瞳を優しげに細める。
「せっかくだし、俺らも混ぜてよ」
「え~っ!?」
「いいよ」
大野さんはめちゃめちゃ嫌そうな顔したけど、翔さんはあっさりオッケー。
俺は直ぐさま店員を呼んで、4人席へと移動させてもらった。
「翔くん、なんで~?」
「なんでって、同じ店の中にいるのに、別々に飲むことないだろ?」
「だって…今は俺の翔くんなのに…」
翔さんの向かい側から隣へと移動した大野さんは、するりと腕を絡める。
「それはまぁ…後でゆっくりでいいでしょ?」
今までなら、恥ずかしいのか照れくさいのか、大野さんがそんなことしたら嫌がる素振りを見せてたはずなのに。
満更でもなさそうな表情で、自分の腕に絡みついた手をそっと撫でた。
「うん、約束ね?いっぱい気持ち良くなろうね❤」
「だから…そういうこと言わないでよね」
やんわりと咎めながらも、翔さんの眼差しはすごく柔らかい。
大野さんの目から乱れ飛ぶ❤を、真っ正面から受け取って喜んでる…気がする。
明らかに。
俺の時の翔さんとは、違う。
まさか…
決めたの…?
心臓が、どくんと嫌な音を立てて。
嫌な汗が、背筋を滑り落ちてった。
思わず隣の相葉くんを見ると、同じように呆然と2人を見ていた。
「あ、翔くんのもうないじゃん。次、なに飲む?あ、これ美味そうじゃない?伊予柑チューハイ」
「おお、いいかも」
そんなキャラじゃないのに、甲斐甲斐しく世話を焼きたがる大野さんと、それを当たり前みたいに受け取る翔さん。
そんな2人の間に流れるのは、吐き気がしそうなほど甘~い空気…
くっそ…
悔し紛れにぐいっとビールを飲み干すと、ふと翔さんの視線がこっちに向いて。
やけに真剣な眼差しが、俺を突き刺した。
え…?
最初、ごめんなってサインかと思った。
大野さんを選ぶから、ごめんなって。
でも。
その眼差しに、そんな申し訳無さは微塵も感じられなくて。
ただ、俺に向かって真っ直ぐに向かうそれがなんなのか、俺にはわからなかった。
なに…?
なにが言いたいの…?
そんな翔さんを、大野さんは静かに見つめていた。