第5章 ♡甘い快楽と苦い花
「~♪」
昨日は、あれから月臣に呼ばれることもなく
夜はぐっすりと眠りにつけた。
そして、珍しく今朝は花臣が押しかけて来ず
爽やかな朝を迎えられた。
今は羊から、月臣からの伝言で今日の仕事と伝えられた窓拭きを行っている最中だ。
(こういう、普通のお仕事ができるのが嬉しい)
窓の汚れと一緒に
昨日までの穢れた日々も落す気持ちで
清々しく感じながら窓掃除を行う。
(このままずっとこういうお仕事だけだったらな……
いや!せっかくのひと時!
今は余計なことは考えないようにしよう!)
『...きれい』
「...え?」
急に後ろから澄んだ声が聞こえて、
めるは振り返る。
「あ...!雪臣さん...!」
『......あれ、俺の名前...?』
目が合うと、彼は自分の名前を呼ばれたことに
ちょこんと首を傾げる。
「あ...!花臣さんから、聞きました」
『...ああ、そう。...花臣がね。
...それで...これ、全部君がやったの?』
雪臣は、めるが掃除し終わった窓たちを
ゆっくりとした仕草で目で追いかける。
「は、はい...!あ、その...すみません。
こんなのではダメでしたでしょうか...」
『...何言ってるの?
すごく、綺麗。
君、掃除得意なんだね。』
「...え?あ、あっありがとうございます...!」
めるはぺこりと頭を下げる。
『...............花臣のこと、ごめんね。』
「え?」
急に頭の上からそんな声が聞こえてきて、顔をあげる。
『...なんでもない。』
けれど、いつもの変わらない無表情で
そのまま言葉を濁されてしまった。
『...それじゃあ、掃除の邪魔してごめん。
無理しないでね。』
それだけ言い残し、
遠ざかっていく雪臣を少しだけ見つめると、
すぐにめるは掃除の続きを始めた。