第7章 ♡月と雪と日陰の花と、日向の花
「......でも、どうして私なんですか...?
そりゃあ、あの言葉は、花臣さんにとって
とても大きなものだったかもしれない、
ですけど...でも.........」
『...驚くと思うけど、正直、あの言葉だけ...
それだけでも、僕にとっては
君を好きになるには十分だった。
現に、それだけで、ちょっと悔しいけど...
ほぼ完全に惚れちゃってたし。
でも.........それだけじゃない。』
「.........?」
『僕の作ったご飯、どうだった?』
「......え?」
『食べて...残念って思った?』
その問いに、めるは驚き、
花臣が覆いかぶさっているのを気にも止めず、
思いっきりに首を横に振る。
「何言ってるんですか!?
そんなこと思うわけないじゃないですか!
......あんなに温かい幸せなご飯を...
そんな...残念、なんて...
絶対にありえません!」
花臣は、そんなめるをちらりと見て、
本当に幸せそうにくすりと笑うと
まためるに身体を預ける。
『...............それが、
君をお嫁さんにしたいと思った
もう1つの理由だよ。』
「え?......え?
どういうこと、ですか?」
『僕と君は、幸せの基準が同じだ。』
「............あ...」
『ほとんどの人は、自分で料理が得意なんて言う、時環家三男の作る料理なんて...
一体どんな豪華で煌びやかなものがでてくるんだろう...
そう思って......勝手に期待をして、
あんな庶民的なものを出されたら
ガッカリするはずなんだ。
......現に、実際何度も色んな女性に
ガッカリされてきたしね。』
「.........」
『でも、君は......泣くほど喜んでくれた。
しかも、色んな人たちが僕にガッカリして、時に傷つけられる言葉を浴びせられてきた“それ”と同じご飯を食べて、逆に君は.........
おせじでも同情でもなんでもなく、
僕の夢を“叶えられるよ”って...
そう、言ってくれたんだ。』
「.........」
ゆっくりと、花臣の身体が離れて
めるを見下ろすかたちになると、
彼はとても困ったようにクシャッと笑う。
『...あんなの......ズルいよ...。
好きにならないわけがない.........』