第8章 終焉に向かいし王[羽張迅・迦具都玄示]
「迅」
「…よかったのか?雪音」
「悪趣味なことしておいてよく言うわね」
玄示のもとを後にして物陰に隠れていた羽張と合流し、自分につけられていた小型盗聴器をひらひらと見せる。
「気づいていたのか」
「当たり前。どれだけ貴方と過ごしてると思ってるの?もしもの時の為とはいえ悪趣味よ」
「それは済まない。…さて、そろそろ帰ろうか」
そしてスッと差し出された手を見つめて首を傾げると迅はニッコリと笑みを浮かべた。
「お手をどうぞ、我らが姫君」
手を引かれてセプター4(私の檻)への道を歩む。
「…ねぇ迅」
「ん?なんだ?」
「迅も…いなくなるの…?」
足を止めて迅を見上げ、問を投げた。玄示は剣の状態からして恐らく手遅れなのだろう。彼がいなくなってしまうのはもう覚悟するしかない。
しかし迅は?迅の剣ならばそこまで綻びがある訳では無いはずだ。玄示がダモクレスダウンを引き起こさない限りはきっと生還するだろう。
「…生還すると断言はできない。雪音だって分かっているんだろう?」
なぜ私が関わると大切な人がいなくなってしまうのだろう。私がなにかしたのだろうか?
「迦具都玄示の剣はダモクレスダウンが起こる可能性の方が高い。そうなれば俺は自害してでも被害を抑えなければならない」
「なら…せめて私も決戦の地へ連れて行って。最期を見届けたいの」
「雪音…」
「お願い…!」
少し見つめあったあと、迅は跪き私の手を引いて抱きしめた。
「常に安全な場所にいると約束できるか?」
「うん。約束する」
「…戦いに飛び込んでこないと約束出来るか?」
「うん」
そして深く長い溜息の後に迅は私が共に行くことを了承してくれた。
こうして決戦の日を迎え、2人の王は命を落とした。
赤の王は自らの剣によって。
青の王は被害を抑えるために死を選んだ。
――――新たなる王の胎動を知らずに。