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涙はとうに枯れてしまった【NARUTO】

第5章 紅葉| ネジ


「何をしている。」
 静寂が支配する森に、冷たい声が静かに響いた。
 気配には気付いていた。少し前から、しゃがみこんだこちらの様子をうかがうように、後ろの方の木の上の枝に立っている。彼が様子をうかがうといっても、さすがに白眼までは使っていないようだけれど。
「…ネジ上忍。」
 私は上から降ってきた声に応じ上の方を振り返った。私の意図が見えなかったから、しびれを切らして訊いてきたのだろう。この人は見かけによらず短気だから。その証拠に、声には少しばかりの怒りが含まれていた。
「こんなところで何をやっている。さっさと帰れ」
「紅葉が見たくなりまして」
「そういうことはきいていない」
 家の近くにはないものですから。修行の後に寄ってみました。夜の楓はさぞかし綺麗だろうと思いまして。なんとなく用意していた答えも、きっと無下に切り捨てられるのだろうと思い、声に出すのはやめることにした。
 この人は風流が解らないのだ。ずっと、憎しみの中で育っていたそうだから。自然の中に眠る美なんて、発見する余裕もなかったのだろう。可哀想に。
 彼はすっ、と木の上から下りてきた。珍しく少し服が汚れている。任務帰りのようだが血の匂いはしなかった。踏みつけられた土が微かに鳴った。
「本当ですよ!」
 慌てたように声を上げてみる。演技するのも馬鹿馬鹿しい。けれど必要なのだから仕方がない。
 きっと夕暮れのグラデーションに染まるのもきれいなんでしょうね。
「誰も嘘だとは言っていない。
境界は曖昧だが、ここは一応里外だ。夜に、一人で、こんなところにいて他の里と通じていると思われたらどうするんだ。」
「……。」
 睨みつける純白の目が、一歩一歩近づいて来た。じりじりと視線が刺さる。目は口ほどにものを言うのは本当だな、とまるで人ごとのように思った。ああ、ここから去らなければならないのか。素晴らしい時間を与えてくれたここを。諦めるように、ゆっくりと地面に手をついて立ち上がる。思わず溜め息が漏れた。
「明日、お前が死体になって出てきたら、見過ごした俺の責任になるだろう。」
 彼は眉間の皺をさらに深くして呟いた。
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