第9章 虹の欠片
「どうしてってさ…潤には…
潤には、幸せになってもらいたいんだ…」
翔くんの視線を感じながら、俺は残った方のサンドボトルを手に取って、それを棚に戻した。
「…潤は、俺とで…幸せになれるのかな?…」
「なれるよ!」
「…智くん…」
思わず絡み合ってしまった視線に、
俺の心臓はドキンッと跳ねた。
「潤は…小さい頃から、翔くんのことが…
翔くんだけが大好きだったんだ…」
「……」
「だから…翔くんと一緒にいることが、
潤の幸せなんだ…」
……そう…
潤はずっと翔くんのことが好きだった。
家の中で、俺がどんなに可愛がっても、
潤は、俺との距離を保ったままで…
俺を近づけようとしないまま。
この家に来た頃は、そんなことなかったのに、
父さんが、潤に本当は俺と母親が違うことを話したくらいから…
潤は、自分を偽って笑うようになった。
自分が…
自分だけがこの家の中で違う存在なんだって…
そう思っていたのかもしれない。
そんなことないんだって。
潤はちゃんと俺の弟なんだって。
そう思って変わらず接し続けても…
潤は、ますます心を開かなくなっていった。
そんな潤が、家族よりも本当の自分を見せていたのが翔くんだった。
兄の俺よりも、翔くんに…
翔くんだけには甘え、心を開いていった。
潤がやんちゃして見せるのも、
我儘言うのも翔くんだった。
俺は、本当の意味で、
二人の間に入ることが出来なくなった。
……翔くんに寄り添っていく潤になのか?
潤を支える翔くんになのか?
誰にも言えない黒い嫉妬が、
俺の中で、小さな炎を燻らせていたんだ。
潤の気持ちも…
俺の気持ちも…
翔くんは、全部持って行ってしまったのかもしれない。