第8章 追憶の日々
「あ、そう言えば、俺さ、
翔くんと付き合うことになったから。」
「……え?」
「言ってなかったよね〜?…」
親が出掛けてしまい、
智と二人っきりで
夕御飯のカレーを食べているとき。
俺は、何でもないことのように…
昨日の巨人戦の結果を話すみたいに、
翔くんとのこと、智に伝えた。
智はポカンと口を開け、
俺のことじっと見ている。
俺はその視線を感じながら、
普通の顔して、カレーを食べた。
「えっと、つ、付き合うって…」
「だから、そういうこと。
詳しく言わなくても、分かるでしょ?」
「あ、そう…そっか。何だよ〜
早く言えよ〜。い、いつからなの?」
智の狼狽え方が可笑しくて、
俺は少し笑った。
「まだ、二週間くらいかな〜
だから、付き合うっていっても、まだ、あれだけど…」
「そっか、そっか。良かったなぁ〜!
おめでとう!なんだぁ…そうかぁ……」
「うん、まあ、一応智にはね、
話しとこうかな、と思って」
………嘘だ。
ホントは一番に話したかった。
だって、智は……
「ずっと翔くんのこと、好きだったもんな。
いや、ホントに良かったなー」
「…そうだね〜…」
…………ホントは悔しいだろ?
俺が翔くんのこと、独り占めしちゃうけど。
悪いね?
智……あんただって、
好きだったよな?翔くんのこと……
そうだろう?
だけど。
悪いけど、翔くんは俺がもらうよ?
俺は翔くんと幸せになるから。
お前は変わらずに、のほほんと生きてけよ。
みんなの愛情、いっぱいの中でさ。
だから、たったひとつ、
翔くんだけは、俺が……
智のひきつった笑顔を横目に、
俺はカレーを食べ続けた。
智のことしか愛していない、
母さんのカレーを……