第1章 ~Prologue~
今夜も引き寄せられるように来てしまった。
渋谷のclub。
今夜も賑やかな音楽に、ひしめく様に、どこからともなく集まってきた若者たちが体を揺らす。
俺もその一人...
目が慣れるまで動けず、入り口付近で立ち止まっている俺に、探していた人の声が...
「翔!!こっち」
「J!」
奥の壁際、仲間に囲まれているその人、
みんなからJと呼ばれる彼。
「翔、お前、遅かったじゃん」
「うん...教授に捕まっちゃってさ」
俺に声を掛けて来たのは、Jの仲間のひとり、カズ。
「ヒュ~、お坊ちゃま大学生。こんなとこ来てていいの~?宿題終ったの~?」
茶化してきたのもJとよく一緒に居る雅紀。
実は彼に誘われてここに来たのが、Jと俺の出会いだった。
雅紀はバイト先で知り合った一個下の大学生。
家庭的に大変らしくて、ここのclubもバイトしてるんだけど、今日は遊びできたらしい。
「翔、ここに来いよ」
取り巻きの女の子を退けて、俺を呼んでくれたJ。
渋々離れる彼女たちに、睨まれながら空けられたその隣に座るのは、小さな優越感だ。
「翔...会いたかった..」
すぐさま伸びてきた手は俺の顎を引き寄せ、
唇を奪う。
『キャー////』
女の子達の小さな悲鳴を聞いて、
俺は慌ててJを押し退ける。
「何すんだよ..止めてよ...」
「翔の止めては、もっと、だろ~?」
笑いながらそう言うJに、俺は真っ赤になって俯いた。
雅紀やカズも、いつものことと笑ってみてる。
ここにいる俺は、俺じゃない。
ここでは...Jの隣にいる俺は、
偽りの俺...
それとも、いつもの俺が嘘なの?
...分からない....
身体の芯を震わせるビートが、
今夜も俺を狂わせていく...