第22章 forget me not~忘れないで~
【翔】
今日は一人で、神楽坂の病院を訪ねていた
待合にはいつものように誰もいなくて、
本当に大丈夫なんだろうかと、心配になる
ただならぬ気配を感じてふと見ると、
窓辺に大きな丸い物体が…
「ふみゃあ~…」
「えっ…」
その丸は、不意に顔を出し、俺を振り返ってひと鳴きした
「えっと、あの…」
飛びかかってきたらどうしようか…
あんなでっかいのが、上から降って来たら、どうやって防げば…
「翔くん、どうぞ~」
「あ、せっ、先生…あれ…」
東山先生が見上げると、出窓から飛び降りてきたそいつは、優雅にゆっくりと歩いて東山先生の足元に纏わりついた
「…こいつ、患者さんのなんだ…暫く、海外の旦那さんのところに行くっていうから、その間預かったんだ~
なぁ~、つよし♪」
つよし、って…
先生は、つよしを抱き上げようとして見事にネコパンチをくらい、手を引っ込めた
「ははは、まだ、懐かなくてね~…」
つよしはまた先生から離れ、今度は開け放たれた診察室に入っていってしまった
「いいんですか?」
「ああ、いいんだ…心に病を抱えた患者には、動物か時に、癒しになることもある…」
「あ~、アニマルセラピーっていうやつですか?」
「そう!流石翔くん、よく知ってるね~」
まあ、誰でも知ってると思うけど…
先生の後について診察室に入ると、
つよしは、ソファー下のラグの上で丸くなっていた
「気にしなくていいから。
で、今日は、相談って言ってたけど…
潤くんのこと?」
東山先生は、俺に紅茶のカップを差し出しながらそう言った
「…はい…」
そう言って言葉を切ったまま黙り込んだ俺に、
東山先生はカルテを出しながら言った