第20章 君をずっと思ってる
【翔】
「おう、お帰り〜!上がれよ」
潤が訪ねて来たのは、夜になってからだった。
「お邪魔しま〜す…はい、これ。温泉饅頭」
「はは、ホントに買ってきたんだ〜」
笑いながら受けとる俺に、
「何個か試食しちゃってさ〜、お腹いっぱいになっちゃったよ〜」
温泉街で、饅頭を試食する潤は、何となく似合わないけど。
その顔は、穏やかに微笑んでいて…
その脇に並んでいたであろう美穂さんが、きっと、そんな潤を優しく見ていただろうと……
そう思うと、何だか、胸が温かくなった。
リビングで、潤の温泉旅行の話を聞きながら、みんなでお茶を飲み、俺の部屋に来た。
「潤、風呂は?今夜、泊まるだろ〜?」
「うん…どうしようかな……」
目を合わせないで雑誌をめくる潤
今夜の様子が少し違うこと、来たときから気付いていた。
親子水入らずの話を聞いてみようかとも思ったけど、普通に楽しく過ごしたことは、さっき親と一緒に話した時に潤が話していた。
俺の母親なんか、本気で羨ましがっていた。
だからこそなんだ
だからこそ、
俺の中にある言葉にできない不安…
それはあたかも、
晴れてた空に、急に広がる黒雲にも似て……
そんな不安を払拭したくて、
敢えて明るく潤を誘った。
「潤…泊まってくだろ?帰るなんて、そんな淋しい事言わないよな~?…」
「…うん…」
「よし!じゃ、一緒に風呂に入ろうぜ~」
「一緒に~?」
「あ~、何だよ?その不満そうな顔!
ほら行くぞ!」
「あ、ちょっと、翔くん」
俺は強引に潤の肩を抱いて階段を下りた。
「なに~?お風呂?」
「うん、時間稼ぎで二人で入っちゃうよ~」
「相変わらず仲良しね~」
何も知らない、呑気な母親の声を背に、
俺は潤にウインクを飛ばした。
潤はほんの少しだけ、赤くなった。