第12章 irony of fate 〜運命の悪戯〜
俺は昼間、時々塾で講師のバイトをしていた。
そこにいたのが櫻井翔だった。
大学も俺とは違い、優秀なお坊ちゃま大学だったから、
普段は有望株の高校生の個人授業をしていた。
だから、顔見知りではあったけど、
殆ど話したことはなかった。
そんなある日、塾の夏期講習があった。
2泊3日のホテル宿泊を伴う集中講習だった。
俺は無理だからと断ったんだけど、
塾長にどうしてもと頼み込まれて、
渋々参加することに…
「相葉くん?だったよね?」
櫻井翔の方から声を掛けて来た。
「教え方、上手なんだってね~?
俺の教えてる子が言ってたよ~」
そう言って笑った彼の笑顔に、俺は言葉を返すのも忘れて見惚れていた。
なんてカッコいいんだろう?
爽やかで、嫌味がなくて…
俺とは違う世界で生きて来た人間なんだろうな。
それが翔の第一印象だった。
その合宿中に、俺と翔は急接近した。
好きなアーティストも同じで、地元も駅にして2つ離れているだけだった俺たちは、直ぐに意気投合した。
「雅紀って、いつもどんなところで遊んでるの?」
「俺?俺は渋谷かな~?翔は?」
「俺も渋谷には行くけど…」
「今度俺のバイトとしてる店に来ない?」
「えっ?雅紀渋谷でもバイトしてるの?」
「うん、不定期だけどね~」
「偉いね~、ちゃんと大学も行って、バイトして、自立してるもんね~…
雅紀に比べたら、俺なんか、まだまだだよ…」
「そんなこと…」
「ホントに。雅紀尊敬するよ!」
「……ありがと…」
素直に感情を顔に出す翔に褒められ、
なんだか嬉しくなってしまった俺は、
翔をclubに誘い、一緒に行く日を決めたんだ。
運命の……
運命の歯車が、狂いだしたのを、
俺はこの時まだ、気づかないでいた……