第8章 玉風
「やべ…。慰めたかったのに、泣かしちゃった。」
本当に泣かすつもりなんてなかったから…結構慌ててる。
ここから、どうやって逆転するとか…普段は赤葦任せの戦略を頭の中で組み立てる。
「やめて…下さい。」
全身を使った和奏からの拒否に、組み立て始めた戦略は崩れる。
やっぱり、俺に戦略とか向かない。
ちょっとくらい強引にポイントを奪いに行く方が俺らしい。
「これ以上、和奏の嫌がる事は絶対にしないって約束するから…泣くときくらい俺の胸使えよ。じゃないと…俺がいる意味ないだろ。」
どんだけ押し返しても離してやるつもりはない。
ここで引いたら負け試合になるから。
「やめて下さい。これ以上…私に蛍を裏切らせないで下さい。」
和奏は罪悪感を感じているのか。
俺と一緒にいる事に…。
それこそ、付け入る隙が出来ている証拠だ。
「俺が無理矢理した事だろ。ツッキーにもそう言えばいい。…それとも、和奏も少しは俺に抱きしめられて嬉しいと思ってるって事?」
和奏は何も言わずに、腕の中で俯いている。
何も言わないと言うのは、認めているのか、認めたくなくて、自分の中で争っているか…。
「なぁ、そろそろ素直になってよ。俺はツッキーと違って、和奏の気持ち全部受け止めてやれる。今の悲しみも…。少しでも俺を必要だと思ってくれるなら、その気持ちも見逃さない。もし…ヤキモチなんて妬いてくれたら…考えただけで嬉しすぎる。」
「私…木兎さんの事、好きじゃありません。」
わかってるけど、そんなにハッキリ言われるとショックだ。
「知ってる。」
「蛍が好きです。」
それも、わざわざ言わなくていい。
でも、それも「今は」って話だろ?
「知ってるって。でも、今ここに居て欲しいんだろ?」
今じゃなくていい。
でも、いつか俺に振り向いてくれるなら。
今はただ俺を利用して…必要としてくれれば、十分だ。
俺の思いが通じたのか、和奏の腕がゆっくりと俺の背中に回された。
がっついちゃダメってわかってるけど、嬉し過ぎて思わず和奏を抱き締める腕に力を強める。
「なぁ、和奏…キスしていい?」
「絶対にダメです。」
だよな。これで十分だ…今は。
和奏のすすり泣く声が止まるまで、ギューっと抱きしめ続けた。