第7章 青嵐
「やべ…。慰めたかったのに、泣かしちゃった。」
木兎さんがそう呟くと、私の腕を引き寄せ抱きしめてきたので、条件反射のように抵抗した。
「やめて…下さい。」
「これ以上、和奏の嫌がる事は絶対にしないって約束するから…泣くときくらい俺の胸使えよ。じゃないと…俺がいる意味ないだろ。」
上から降り注ぐ木兎さんの声。
この人は…意地悪なのか、優しいのか…本当に意味不明だ。
でも、このペースに巻き込まれてはいけない。
昨日の記憶が私に警告していた。
このペースに巻き込まれると、最後は彼の温かさに縋り付きたくなる弱い自分が…危険だと。
「やめて下さい。これ以上…私に蛍を裏切らせないで下さい。」
「俺が無理矢理した事だろ。ツッキーにもそう言えばいい。…それとも、和奏も少しは俺に抱きしめられて嬉しいと思ってるって事?」
顔は見えないけど…わかる。
木兎さんは私の気持ちなんてお見通しなんだ。
本当は蛍に泣きつきたかった事。
木兎さんの事も…。今までの事も全部。
でも、蛍とはすれ違ったままの事。
そして…蛍じゃなくても、とにかく誰かに泣きつきたいと思っていた事。
「なぁ、そろそろ素直になってよ。俺はツッキーと違って、和奏の気持ち全部受け止めてやれる。今の悲しみも…。少しでも俺を必要だと思ってくれるなら、その気持ちも見逃さない。もし…ヤキモチなんて妬いてくれたら…考えただけで嬉しすぎる。」
何で…蛍じゃないんだろう。
涙だけが溢れてくる。
「私…木兎さんの事、好きじゃありません。」
「知ってる。」
「蛍が好きです。」
「知ってるって。でも、今ここに居て欲しいんだろ?」
誰でも…いい。
誰かに抱きしめられたい。
私は…最低な奴だ。
返事はせずにゆっくりと木兎さんの背中に手を回した。
答えるように木兎さんが腕の力を強める。
そして、耳元で甘く囁かれる。
「なぁ、和奏…キスしていい?」
「絶対にダメです。」
でも、しばらくこのまま…。