第13章 雄風
そう言われると、確かに自分の存在が凄く不確かなものに思えてくる。
何かに縋り付かないと、消えてしまうのかもしれない…。
でも、蛍と向き合えないままなら、消えてしまいたい。
「ダメです。今日は木兎さんに話があって来てもらいました。」
「もう、それ以上は聞きたくないんだけど。無理矢理でも抱きしめようか?」
木兎さんの言葉。
冗談のトーンなのに、ひしひしと本気が伝わってくる。
「わがまま言って…振り回してすいません。蛍にはフラれてしまったけど、私は蛍を諦められません。だから、木兎さんとは、もう個人的には会いません。連絡も取りません。」
いつの間にか握って居た拳にギューっと力がこもる。
そんな私の様子を、表情を変えずに見守って居た木兎さんは、はーっと大げさなため息をついた。
「昨日、和奏が…和奏ちゃんがツッキーを追い掛けて行った時から、こうなるだろうと思ってたよ。心ゆくまでツッキーを追い掛けたらいいよ。でもさ、疲れたら俺に戻ってくるのは?ありじゃない?」
んっと両手を広げる木兎さんの瞳をしっかりと見つめ返す。
「すいません。それだけは絶対にないです。」
返事は最初から決まっていた。
保険なんてかける必要ない。
だって、蛍以外じゃ意味がないんだって気付いてしまったから。
「あーぁ。素直な和奏ちゃんも可愛かったのに。でも、つれない和奏ちゃんも元から好きだけどね。じゃあ、これ以上話すこともないし、お腹も減ったから、俺、朝食行くな。」
最後まで変わらない冗談口調の木兎さん。
でも、ここ数日で私は知ってしまった。
彼には、冗談口調で隠された気持ちがあるって事を。
振り向きもせずに去って行く木兎さんの背中に、思わず深々と頭を下げて見送った。