第13章 雄風
「もう…いいよ。もういい。別れよう、和奏。」
蛍の言った言葉が頭の中で繰り返される。
そして、蛍の泣き顔がこびりついて離れない。
ずっと蛍に嫌われないように…って。
蛍にとって重くなりすぎないように…。
でも、軽くもなりすぎないように…。
そうやってちょうどいい自分を探していた。
「何してるのか、聞いてるんだけど?」
なのに、一番大切な人を一番酷い方法で傷付けてしまった。
蛍の泣き顔が頭から離れない。
蛍の泣き顔を見たのは、あの…想いが通じあった時以来だ。
凄く優しいくせに意地悪で、ダサい事が嫌いで、意地っ張りで…そんな蛍が、あんなにも泣いていた。
もう…いい。
蛍はそう言った。
蛍の中にも…張り詰めた物があったのだろうか。
途切れないように…必死に繋ぎ止めていた…。
そんな2人の関係を自分で手放したんだ。
違う。
私の意思で手放したんじゃない。
私の弱さゆえに、手の中からすり抜けていったのだ。
「ごめん…なさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
許して欲しいだなんて、言う権利もない。
その時、空気に押しつぶされるように、地面にのめり込みそうな私の身体が急に、重量に逆らって上に引き上げられた。
「何、1人で泣いてんだよ。約束が違うだろぉが。」
掴まれた腕の先を辿れば、眉間に皺を寄せた影山君が立って居た。
「なんで…ここに?」