第12章 夕風
もう一度、目の前で泣いている和奏を見上げる。
僕が和奏を見上げてるなんて…珍しい。
いつもは俯いて見えない和奏の泣き顔が、今日はよく見える。
これが和奏との最後の思い出になるのかな。
泣かないで。
笑った顔を見せてよ。
ゆっくりと手を和奏に伸ばす。
届くはずがないから、そのまま空気を掴んでゆっくり落ちる。
もう…いいよ。
僕から解放してあげる。
僕より…好きなんでしょ?
木兎さんの事。
僕より心許しているんでしょ?
木兎さんに。
和奏のことを一番に考えて来たつもりだったけど…僕の独りよがりだったね。
独りよがりだったけど、僕なりに一生懸命だったんだ。
でも、もう疲れた。
「もう…いいよ。もういい。別れよう、和奏。」
バッとこちらを見る和奏と目が合う。
わかってあげられなくて、守ってあげられなくてごめんね。
泣かせてばかりで、傷つけてばかりで、本当にごめんね。
口に出して伝える勇気が無くてごめん。
「蛍…。蛍…。」
和奏に呼ばれる自分の名前が好きだった。
和奏が意地になるのが見たくて…意地悪言うのも好きだった。
和奏の笑った顔が好きで、怒った顔が好きで…やっぱり泣いた顔は少し苦手だ。
「悪いけど、僕はこれ以上和奏と話し合う気は無いから。」
一生立ち上がれないような気がしてたけど、立ち上がってみるとそんな事ないってわかる。
きっと…和奏が好き過ぎて立ち直れないって気がしてるけど…いつかそんな事ないって思えるまで…、
お願いだから、僕の最後の強がりだけは見破らないでよ。
その場に泣き崩れる和奏を残してその場を去る。
最後まで泣かせて…ごめんね。