第11章 猛風
抵抗する気配のない和奏に、何度も何度と唇を重ねる。
こんな幸せでいいんだろうか。
あれだけ独り占めしたいと思っていた和奏が、今、俺の手の中にいる。
「ん…ぼく…と…さ…。」
しかも、今回は無理矢理じゃない。
キスの間に俺の名前を呼ぶなんて…可愛すぎるだろ。
夢中になってたから、気付かなかった。
「何…してるのさ?」
和奏に唇を重ねたまま、視線だけ上げると、そこに一番立ってちゃダメな奴が立ってて…、
こちらを射殺すみたいに睨んでいるツッキーの殺気に思わず和奏から唇を離す。
「……。」
ツッキーの姿を見ると和奏も青ざめる。
ぎゅっと、俺の服を掴む和奏の手に力が入るのを感じて、俺は少しだけ冷静さを取り戻す。
大丈夫だよ。
和奏だけは守るって約束だろ。
「何してるのか、聞いてるんだけど?」
「覗き見とか…」
「僕は和奏に聞いてるんです!」
ツッキーの声が俺の言葉を遮った。
和奏の様子を見れば、泣いてこそいないものの青い顔してカタカタと震えている。
「あの…け…い…。これは…。」
言い淀んでいる和奏に近付き、腕を無理矢理引き寄せるツッキー。
って、見守ってる場合じゃねぇだろ。
「やめろよ。和奏が怯えてんの、わかるだろ?」
ツッキーの肩を掴んでやめさせると、先程も感じた殺気に満ちた目で睨み返される。
今まで何度もネットを挟んで相対してきたけど、正直こんなツッキー初めてだ。
「もう…いい。」
誰の言葉か一瞬わからなかった。
だって、あんなに殺気に満ちた奴から出る言葉とは思えないほど、力なく悲しい響きだったから。
ツッキーがゆっくり和奏の腕を離して、去っていく姿をただ呆然と見ていた。
「けい…。蛍!!」
俺を正気に戻したのは、ツッキーを追い掛けて走り出そうとしている和奏の声だった。
慌てて、彼女の腕を掴む。
「行くなよ。今行ったら、酷い目にあわされるだろ。それに…追い掛けても手遅れだよ。」
これで和奏は俺のものになる…って思う気持ち以上に、ザワザワした気持ちが強い。
「でも…行きます。蛍が泣いてた…。」
今までで一番意志の強い瞳で見つめ返されると、腕を離して見送るしかなかった。