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優等生と人見知り【幽遊白書】

第6章 美術室


ざらざらとした真白い紙の上に木炭の黒い線が縦、横、斜めと走る。さささと、薄手の白いガーゼで撫ぜると線と線が面になり、なめらかな石膏像の質感が徐々に浮き上がってきた。俺の目にもわかるくらいにモチーフと同じ形が見えてくると、迷いなく動いていた手が止まり、そこから木炭と、ガーゼ、指と消しゴムを駆使して丹念にディテールを掘り起こしていく。
普段の物静かな上山さんが、熱心に対象を見て手を動かしている。ガラス窓に映り込んだ顔は眉をよせ少し難しい顔をしていた。大きく開かれた瞳に、内に秘めた静かな情熱を感じることができて、本当はすごく情熱的な人なのかなと思った。そしてそれを知っているのは、自分だけだという事に優越感を感じた。
退校時間を知らせる鐘がなると彼女は絵の道具や、イーゼルを片付けると、木炭の粉で染まった白い手を水道で手を洗う。短く切りそろえられた爪の間に入り込んだ木炭の粉は落ち、冷たい水にさらされた指先はほんのりと赤くなっている。
「魔法みたいだね。」
石膏像を棚に戻し、制服の上から着たスモッグを脱ごうとした上山さんはびっくりしたように振り返り、え、と一言もらしたまま固まった。
「あれはもう完成なの?」
「あっ、もう少し書き込んだら、完成、だけど。南野くんが魔法なんて言葉を使うんだね。」
少し意外、と呟くと上山さんは、着ていたスモッグをぱんぱんと軽く叩き畳んで、絵の道具と一緒にロッカーにしまった。
「変かな。あっという間に出来上がっていくから、不思議な物を見ている気分だったよ。俺は絵を描くのは得意じゃないからうらやましいな。これから図書館に行く?」
「うん。私、授業の合間に課題を終わらせるほど、器用じゃないから。まるまる残っているのを片付けないと。」
「俺も課題はまだ終わっていないんだ。」
「珍しいね。それじゃあ、私は今日中には終わらないかな。」
今日は、上山さんが絵を描いている姿を見ていたから。なんて言ったら、注目されることに慣れていない彼女はきっと明日からもう絵を描いてくれなくなるのかもしれない。かわりに、俺だっていつも勉強がはかどっているわけではないですよ、一緒に行きましょう、と言った。鞄を渡すと上山さんはぱっと顔を赤らめるとありがとうと小さな声を零した。
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