第8章 イキスギ
「…………腰痛い。」
「ごめんって。」
シャワーを浴びて、正気に戻った澪は
ベッドに横たわったまま
俺に枕を投げつけてきた。
「いでっ」
枕は俺にクリーンヒットして
脳がぐらつく。
頭を抑えて首を振り、正気に戻す。
澪はその間に、
もぞもぞと掛け布団にくるまった。
「………でも、きもち、良かった……。」
珍しく『新しいこと』が
お気に召したらしい澪は
ぼそりと呟く。
「………また、するよね?」
「……んー…。」
ただ、俺はモヤモヤしていた。
気持ち良かった?今日のが?
「…退は、違ったの?
気持ちよくなかった?」
「………まぁ、そんなとこかな。」
ベットにくるまる澪を放置して
ソファーに座った。
澪かどうかも分からない奴を
抱くのが、気持ち良かったと言えるのだろうか
冷たい麦茶をごくりと飲み干して
頭を冷ます。
…いや、俺が抱いたのは間違いなく
澪なんだけど。
でも、なんていうかこう…
ハッキリしなかったな。
「……。」
不完全燃焼ってこういうことを言うのか?
「…………さがる…。」
澪が俺の名前を
消えそうな小声で呼んでいる。
「……あ、ごめんごめん。
マッサージする約束だったっけ。」
空になったコップを置いて、
澪の元へ向かう。
その後、澪の心配そうな顔を他所に、
俺はずっと上の空だった。