第6章 距離感
「コロ、ご飯だよ。」
私を警戒しているのか、“コロ”はソファーの背もたれからこちらの様子をうかがっている。
「ここに置いておくからね。」
定位置であろう場所にドライフードを置く。
私がそこから離れると、コロはソファーの背もたれから飛び降り、ドライフードを食べ始めた。
「猫なのにコロ?」
と佐久間さんは笑っていたが、とっさに思い付いた名前が“コロ”だった。
それは幼い頃に拾ってきた犬の名前。
次の日の朝には姿を消してしまった犬の名前だ。
昨日の夜、慌てて作ったカレーを佐久間さんは美味しそうに食べてくれた。
「明後日には帰って来るんだけど、それまで冷蔵庫に入れておけばもつかな?」
などと言って笑っていた。
食事を終えると、コロのご飯やトイレなどの説明を受け、この部屋の合鍵を受け取った。
「好きに使っていいから。」
と佐久間さんは言っていたが、そんな図々しい事は出来ない。
こんなにも簡単に部屋の合鍵を受け取ってしまっても良いものなのだろうか…。
佐久間さんは他人を疑うという事を知らないのかもしれない。