第12章 弦月
「先に言っとくけど…別にわざと覗いてたわけじゃないからな。医務室はこの時間人いないって言ってるのに、聞かずに体育館飛び出していったから、わざわざ親切に追い掛けてきたってわけ。」
どのくらい歩いただろう。
校舎から外に出て…たぶん中庭みたいなところ。
黒尾さんはこちらを振り返ってそう切り出した。
「まぁ…別に言わなくても自分でわかってるだろうけど…あれはマズいだろ。」
じゃあ、わざわざ言わないで下さい。
そんな事…俺が一番わかってるし、後悔してる。
「まぁ、反省してる奴にこれ以上説教しても仕方ないだろうけどさ…。なんでそんな事になっちゃってんの?皐月さんがセッター君と付き合ったり、ツッキーが無理矢理襲ったり…。」
なんで、今更そんな何万回も考えていた事を言われなきゃならないんだ。
「そんなの…僕が一番知りたいですよ。」
うーん…と黒尾さんは渋い顔で頭をガシガシかいた。
「少なくとも前回の合宿の時はラブラブだったじゃん。ツッキーと皐月さん。それこそ、あの木兎がキャンセル待ちに甘んじるくらい…付け入る隙がないって感じだっただろ?」
黒尾さんは、木兎さんと同じ勘違いをしてる。
「僕と和奏は付き合ってません。ただの幼馴染です。」
「ツッキーもそう思ってんの?」
「俺は…好きですよ。和奏の事。もう…10年以上も片想いです。でも、和奏にとって僕はただの幼馴染です。」
この感情を自分の外に出したのは初めてかもしれない。
「それって…お互い確認したのか?ツッキーが好きって伝えても、皐月さんが幼馴染で居たいっていったの?少なくとも、俺には皐月さんがツッキーの事好きなように見えるけどね。」
「確認なんて無駄ですよ。今は王様…影山と付き合ってるですから。」
「ツッキーは真面目だねぇ。別に付き合ってても、俺なら奪うけどね。まぁ、告白するにしても、まずは今日の事許してもらうのが先だけどなぁ。」
どうしたもんかなぁ…と黒尾さんが真剣に考えているようには到底見えないシンキングポーズで固まっている。
奪う…のは無理だとしても…
和奏に僕の気持ちを伝えたい。
2ヶ月前のあの日に伝えようとしていた好きだと言う気持ちを。
でも…。
「最低…。」といった和奏の顔が思い浮かんだ。