第7章 月白
蛍が部屋を出て行く時、私は背を向けて寝たふりをしていた。
パタンと扉が閉まる音を待たずに、涙が溢れ出る。
私…最悪だ。
心配そうにこちらの様子を伺う蛍に気付いてたのに…
寝たふりでやり過ごした。
それだけじゃない。
もっと最悪なのは…
私、行為中…感じたフリしてた。。。
「お前には泣いて欲しくない。」
快楽の波に飲まれそうになる度に真っ直ぐな影山くんの言葉が頭をかすめて、私を引き戻した。
行為の最中に気が散る事なんて…初めてだった。
蛍には演技だとバレているのだろうか。
結局、何もわからなかった。
蛍が何を考えているのか。
蛍じゃないとダメなのか。
もう、自分が何を考えてるのかさえ、わからない。
好きと辛いが同じ重さでのしかかってくる。
[ブーッブーッブーッ]
テーブルの上で携帯のバイブが鳴り出す。
短いメッセージ音ではなく、着信を知らせている。
蛍…。
ベッドから体を起こして、携帯へ駆け寄る。
「あ…」
着信を知らせるディスプレイには、予想していた蛍の名前はない。
[影山 飛雄]
一瞬躊躇って、通話ボタンを押した。