第5章 寒月
心臓が…あり得ないほど早く脈打っている。
皐月に行きたい場所を尋ねると、海だと言われたので、何を喋ればいいのかもわからないまま、ひたすら歩く。
ただ、繋いでいる左手から、俺の震えが伝わるんじゃないかって…不安に思って振り返ろうかと思ったが、
皐月の表情を確認するのが怖くて思いとどまった。
「蛍とはね…家が隣同士でね…」
そんな俺に向かって皐月がポツポツと話し始めた。
幼馴染で、何をするのもいつも一緒だとか…そんな、今更言われなくてもよく知ってる話もあったし、
あの月島が実は人の見てないところで努力するタイプだとか、到底信じられない話もあった。
そして、皐月の話を聞いてる間、ずっと考えていたのは…羨ましいって事。
「小さい頃にね…、大きくなったら結婚しようって蛍に言われたの。小さい頃にありがちな話でしょ?でも、私は本当に嬉しくて…忘れられないんだ。きっと、蛍は覚えてもいないだろうけど。」
「蛍はね…頭がいいと言うより、キッチリ予習復習するタイプなんだ。烏野の受験の時は、蛍と同じ高校行くために必死で勉強したんだ。」
小さい頃の皐月を知ってるあいつが羨ましい。
「ずっとね…片思いなんだ。いつからだろ…?物心ついた頃には好きだったかも。」
「蛍は特別なの。蛍が私の事なんてどうとも思ってなくても、きっと私の中ではずっと蛍が一番特別な気がする。」
無条件にこんなにも皐月から思われるあいつが羨ましい。
「今みたいな関係になっちゃったのは…高校入学の少し前だったの。」
「きっと、私が何か…蛍を怒らせる事しちゃったんだと思うの。」
「ダメだって、わかってるけど…これ以上蛍に嫌われるのが怖いんだ。」
こんなに酷いことをしてるのに、嫌われないあいつが羨ましい。
あぁ、これが嫉妬とか言うやつか。
俺、月島に嫉妬してるんだな。
そして、同時にどうしようもなく腹が立ってる。