第15章 三日月
「いい加減泣き止みなよ。」
手のひらで和奏の涙を拭いとるのは何度目だろう。
「だって…」
だって…嬉しいんだもん。でも、まだ喜んでいい立場じゃない。。。
和奏が分かり易すぎるくらい単純なのか、
それとも僕にエスパー能力でも開花したのか。
和奏の考えている事が手に取るようにわかる。
とりあえず、落ち着かせないと。
コーヒーでも淹れようと、勝手知ったるキッチンを漁る。
和奏の家を訪れるのは数ヶ月ぶりだ。
最後に来た時と少し様子が変わっている。
例えば、僕がいつも使っていたマグカップが隠すように奥の方に隠されていたり。
少しの配置の変化たちに、王様の存在を感じさせられる。
正直…少し凹む。
まぁ、自業自得なんだけど…。
こんな事にいちいち凹んでいる事も、自分にしては珍しく素直だな。
なんて、考えているうちにコーヒーが完成する。
「和奏、コーヒー淹れたよ。飲むでしょ?」
和奏はソファーに座って、涙こそ止まっているけど、まだ鼻がズルズルと言っている。
子供みたい。なんて、そんな様子も可愛いと思ってしまう。
「ありがとう。」
素直に受け取って、両手でそーっと口へ運んでいる。
先程の約束を無視して、今すぐにでも自分だけの和奏にしてしまいたいという欲を抑え込む。
和奏の横にぴったりと座って、マグカップから解放された右手を恋人繋ぎで絡めとる。
「蛍…あの…。」
「わかってるよ。これ以上の事はしないから。でも、朝までこのまま居させてよ。これ以上、少しだって離れたくないんだけど。」
「なんだか…蛍、甘えん坊になった…?」
「ねぇ…それ、雨の中駆け付けた人に言う台詞?」
2人して、ふっと笑った。
あぁ、久しぶりに見る和奏の笑顔だ。
この笑顔を2度と失わないように…そう思いながら、深く深く心に刻み込んだ。