第15章 三日月
「必殺技を授けよう!」
合宿も明日で終わるという日の夜、第三体育館でいつも通り自主練していると、木兎さんと黒尾さんが楽しそうな顔してそう言ったんだ。
必殺技もなにも…、あの夜から和奏に完璧に避けられている。
当たり前だ。
それだけ酷い事をしたんだから。
その上、王様がこちらを見る視線も痛すぎる。
和奏が相談したのだろう。
こんな状況を打破できる必殺技があるなら、
そりゃ、僕だって教えて欲しい。
「簡単だろ。気持ちを素直に伝えりゃいいんだよ。」
黒尾さんが自信満々に言う。
「そんな事が必殺技って…。」
そんな事で解決出来るはずがないほど、状態は悪化してしまっている。
「あっ、信じてないだろー!そもそも、そんな面倒な状態になってるのだって、告白ってやつをすっ飛ばしたせいだろ?なら、そこまで戻って素直になりゃ、ややこしく絡まったもんだって、解けるだろ!」
木兎さんは…僕の状況をどこまで知ってて話してるんだろう…。
じーっと黒尾さんに視線を送る。
「まぁまぁ、これでも木兎の狩りの能力は馬鹿に出来ないぞ。本能のままに赴くと結果がついてくるってな。」
ヘラヘラと笑っている。
やっぱり黒尾さんが木兎さんに全部話したんだ。
その上、楽しんでる。
「木兎さんは和奏の事、狙ってたんじゃないんですか?」
何で、こんなアドバイスしてくるんだろう。
「おー!もちろんだ!セッター君から奪うより、ツッキーから奪う方が楽しそうだろ♫最終的に皐月ちゃんは俺のものにする。絶対に!」
聞かなきゃよかった…。
何でか、怒る気持ちにはなれなかった。
「僕が自分のものを簡単に手放すハズないじゃないですか。」
木兎さんと黒尾さんの必殺技ってやつに、
乗っかってみるのも悪くない気がしてきたから。