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キミと部室で隠しごと

第2章 そういうところが好きじゃないんだ


「キャッ!えっ…なに!なに!?アッ!」
 私は驚きのあまり、椅子から転げ落ちてしまった。
「あれ?桃浜?」
 男の声だ。声の主はパチンと部室の明かりをつけた。
「やっぱり桃浜か。何してるんだこんなところで。もう下校時刻過ぎてるぞ」
 私はめくれ上がったスカートを慌てて直し、体を起こした。
「伊豆…くん」
 野球ユニフォーム姿のその人を見て、私は言った。そう、彼の名前は伊豆くん。男子野球部のエースだ。投げてよし打ってよし、学業成績も悪くなく、校内の女子からはなかなかの人気を集めている。
「伊豆くんこそ…、な、何勝手に入ってるの?ここ、女子野球部の部室だよ?」
 まさか先程の恥ずかしい行為を知られてなければいいけれど…。そんな動揺を気取られないよう、懸命に普段通りの声を作って話す。
「え?女子?ああ…ホントだ。男子の部室は隣だから、間違えたんだな。暗かったし。スマンスマン」
 伊豆くんはケロッとした顔で言った。
 何がスマンだ…。私は少しイラつきを覚えた。彼は周りの女子から「クールな雰囲気がカッコいい」とモテてはいるけれど、部活関係でよく顔を合わせる私は知っている。彼は天然ボケなのだ。しょっちゅう会話が噛み合わない。それに「女の子にデレデレしないところもステキ」なんて言われているけれど、野球バカで他のことは考えていないだけ。だからデリカシーなんてものもない。だいたい、女子の部室に間違えて入ってしまったんだから、もうちょっと済まなそうにすればいいものを…。スマンなんて言っているけれど、本当にそう思っているのかな?しれっとした表情で、どうも考えが読めない。
 私からすれば欠点だらけのこの男がモテまくっているというのが何だか癪で、私は伊豆くんのことがあまり好きではなかった。
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