第49章 buzzっちゃったか
side 出久
事の始まりは、あるサイトに上がった小さなニュース記事。
特に誰も気にも止めないような小さな記事だった。
それを取上げたのが動画サイトによく動画を上げており、チャンネル登録者数もかなり多いヒーローだった。いわゆる大人気インフルエンサーヒーローだ。
彼の“推す”という言葉。
その衝撃的なポーズ。
ひよこちゃんのかわいらしさと適度な可哀想さがマッチした奇跡の面白写真。
そしてドジっ子サイドキックなんていうキャッチーなニュースタイトル。
それらの要素が何故か上手い具合に噛み合ってしまい、その記事と写真は瞬く間に広まっていった。
そして、今。
「コラ画像まで出来てる……」
ひよこちゃんが宇宙に転がり落ちていく謎の雑コラ画像を見ながらため息をつき、スマホをしまって席から立ち上がる。
実際、ひよこちゃん目当てで来ているであろう人が何人かチラチラ廊下に見える。時の人であるひよこちゃんをひと目見ようと、あわよくばSNSにあげようとしている。
当のひよこちゃんは、お昼休みだというのに席で固まっていた。
そりゃそうだ。昨日動画を見ただけで恥ずかしいと顔を真っ赤にして大汗をかいていたのに、事態は想定の遥か上をいっている。
「ひ、ひよこちゃん!お昼ご飯食べに行こうよ!」
「ランチラッシュのご飯を食べて気分転換でもしようじゃないか!」
「うんうん!お腹いっぱい食べれば気分も上がるよ!」
「俺の蕎麦、ちょっとやる。」
「…うん……。ありがとう……!」
麗日さんと飯田くんと轟くんと4人で声をかけてみたが、ひよこちゃんは心做しかげっそりした返事をしていた。
食堂でご飯を食べている時も、ちょっと目を離した隙にひよこちゃんは男子2人組に声をかけられていた。
「すみませ〜ん、一緒に写真とか撮ってもらいたいんですけど、いっすか?」
「え…えと……あ、あぇ……?ど、どうして…ですか?」
「どうしてとかっ!ウケるわまじで」
「えっ…え?」
ひよこちゃんはひとしきり慌てたあと、げっそりした笑顔で断っていた。ひよこちゃんが真剣に悩んでいる間も、声をかけてきた2人組はニヤニヤ笑っていた。
めちゃくちゃ不快だった。
慌てて声をかけて帰ってもらったけど、こういうことが今後増えるだろうかと心配になった。
こういうのをどうしたらいいか、僕にはまだ分からない。
