第46章 どんなに強い者も
『“個性”とは、人間に発現した超常的な能力のこと。ほぼ4歳までに発現し、両親どちらかの“個性”、あるいは複合的な“個性”を宿すことが多い。……って、君のはどっちでもないんだっけ?知らないけど。』
声がした。
目を開いたら、見たことない景色が広がっていた。
海、だった。
誰も居ない、静かな海だ。
「…え、ここ…って言うか私、突入して、それで…えっと、」
キョロキョロと見回しても何も無かった。
ただ当てどない膨大な海が、広がっているだけ。
「私…どうなったの?」
突入して、みんなとはぐれて、
それで、
それで、
なんだっけ。
私は、なにをするんだっけ。
私は、
「あれ?」
嫌にぼーっとする頭をゆっくり押さえ込む。
分からなくなりそうだった。
全部が、全部。
「あれ、私」
『君はまだ死んでないよ。ちょっと気絶してんの。』
その声に振り返ると、ホコリのような、小さな黒の塊がふよふよしていた。
『ここは君のココロの世界。君のココロのすべて。君の孤独も恐怖も価値観も、君の知らない思想だって。』
「私の、こころ?」
ホコリに駆け寄る。
不思議なそれは、私が問いかけるとすぐに答えてくれた。
「アナタは、何なの?」
『あ、それ聞くんだ。』
浮遊するホコリは、実体がないみたいだった。
『俺はね、君の中にある“個性”の前の持ち主だよ。』
ホコリが、ニヤッと笑ったふうに見えた。
「ま、前の…?」
『今君が使ってる与えられた2つの個性の方じゃなくて、“これから発現するもの”のほうね。』
“ココロ”がさぁっと冷えていくのと同時に、当たりが一気に暗くなり、夜空が広がった。
「さ、さむっ!」
『ほら!ココロの世界って言ったでしょ?君の全てが丸裸ってね!』
「…ここ、ほんとに私の…」
『俺の“個性”…今は君のか。この“個性”はね、他人、自分、色んな人のココロに干渉するっつーやつ。』
言葉が出なかった。
色々と混乱してしまって。
「な、に?」
『君にはこれからその“個性”が発現するから、まぁ頑張ってって感じ。俺の個性がまさかヒーロー志望の子に譲渡されちゃうなんてビックリだったよー。まじで。』
言葉が出ない私を差し置いて、そのモヤモヤはマシンガンのように言葉を続けていた。