第43章 疾走するケダモノ
「最近チンピラやらチーマーやらのイザコザが多くてなァア!!腹が減ってしゃアないわ!!」
お祭りみたいに騒がしい町に、私は目を回していた。
お店の人も、歩いてる人も、みんな声が大きくて。それに張り合うように、溶け込むように、ファットさんも大きな声で喋っていた。
厚くて大きな声は、凄く目立つ。
「せやからここらのヒーロー事務所も武闘派欲しがっとんねん。レッドライオット君適材やで。」
「よろしくお願いします!!!」
もうひとつ。
鋭くて硬い、大きな声も、目立つ。
2人の声は、この街の騒音に溶け込んでいた。
「ここではみぃんな、大きな声…。」
「まあ、最初は慣れないだろうな。」
誰にも気づかれるつもりのなかった私の小さなつぶやきは、先輩が拾ってくれた。
「先輩も…でした?」
「…声が小さいって、よく言われた。普通なのに。」
フードの下を覗き込むと、先輩が慌てて目を逸らしたのが見えた。
そうなんだ、と少し心をそわそわさせて、私はコスチュームの蝶々結びをぎゅうっと伸ばした。
やっぱり先輩とは、どこか似ている気がする。
なんだかどこか、分かり合える気がする。
「あまねちゃんはあれやな!」
「ひゃあっ!」
その声に慌てて前を向くと、ファットさんは大きな背中をこちらに向けたまま大きな声で喋っていた。
「度胸がある!それからちっこくて可愛い!」
「かっ!」
「うちの看板娘や!!」
「かんばっ!?」
フードの下からのぞいた私のほっぺは、多分赤かったと思う。
それを隠したくってフードをグイグイ引っ張った。
「その…が、頑張ります。」
「声もちっこくて聞こえんけどな!!!」
「があぁぁ」
フードの下で口をへの字に曲げたまま、前のふたりを見た。
いいなぁ、なんて単純に考えながら。
「ケンカだあ!!誰かァ!!」
そんな時だった。
誰かの声が、喧騒の中にひときわ大きく響いたのは。