第40章 〈番外編〉我逢人
Side ひよこ
夢を見た。
昔の夢。
お父さんが居なくなって、お母さんと一緒に引っ越して。
はじめてあのふたりに出会った時のこと。
秋。ちょうど今の季節ころ、引っ越した。
お母さんが選んだ半そでが、少しだけ寒かったのを覚えてる。
新しい場所は、怖かった。
知らない景色だし、友だちの作り方なんて知るわけないし。お母さんがいればいいと思ってた。
あのふたりもはじめ。怖くて、わからなくて、会いたくなかったなって思ってた。
でも、いろいろあったから。
ほんとうにいろいろ。
私たちの関係ははどんどん変わっていった。
お母さんが居なくなったあの日のこと、よく覚えてる。
あの日は、なにをどうすればいいのかわからなかった。
葬儀の手続きとか、相続とか。
幼かった私にわかるわけないものばかりで、悲しむ暇もなかった。
そんな時に私をちゃんと“悲しませて”くれたのは、他でもないあのふたりだったから。
出久くんは泣くことを教えてくれて、
勝己くんはずっと黙ってそばにいてくれた。
あの優しさを知っていたからふたりは多分、特別なんだと思う。
だから、小学校のときも、中学校のときも、私はなにをされても勝己くんのことを嫌いになれなかったんだと思う。
だから、小学校のときも、中学校のときも、私は出久くんのことが好きだったんだと思う。
目を開くと、よく知る匂いがした。
それから、肩からかけられたよく知る上着が目に入る。
「……っはぁ…」
私はその暖かさに安堵して、少し弾んだ息をもらした。
よかった。元に、戻ったんだ。
ほんとに、よかった。
頬に一筋、熱いものが落ちていった。
アクビのせいなのか、眠いせいなのか、それ以外なのかは知らないけど。心地よいものだった。
その上着を手に立ち上がり。
そして、私は思う。
私は、ふたりに。出久くんと勝己くんに。
“笑顔であってほしい”だけだ。