第39章 ベイビー、グッドモーニング
「おはようひよこちゃん!」
「安藤おはよー!」
「はよー」
「おはよう。」
しゃんと背筋を伸ばす者がいれば、寝癖を残す者もいた。
目を覚ましても、朝はなにも変わりなかった。
目が覚めた時まぶたが少しだけ重たかったのと、心にぽっかり風が吹いたこと。
いつもと違うのは、それくらい。
朝ごはんを食べて、歯を磨いて、顔を洗って。
それからパチンと頬を叩いて、指でむにりと口角を上げた。
うんうん、いい笑顔。
鏡の向こうの私はちゃんと笑っている。
だから、大丈夫。
カバンをすくって、靴を履いて。
目を上げまわりを見渡せば、金の髪に、ピンクの髪、茶色い髪に、紅白の髪。
そして、ぴょんと揺れた癖のある髪。
つきんと傷む心を無視しきれなくて、さっき作った笑顔はいとも容易く崩されてしまう。
きゅっと強ばった口を押し上げて、私は息を吸う。
「っ……いってきますっ!!」
「うぉっ!安藤っ!びっくりしたぁ……」
「ひよこちゃん元気だねぇ」
みんなはびっくりした顔で私を見た。
驚かせてしまったことにごめんねと小さく謝って、それから癖の毛を振り向いた。
驚いた顔をしているのが見えて、私はさっき練習した笑顔を作った。
そしたら彼も笑って。
私の練習した笑顔は、にっと歪んで、本当の笑顔になった。
立ち直るなんて、きっとたくさんたくさん時間がかかる。うじうじ虫の私には、特に。
しょうがないな。
うじうじ虫に、もうちょっとだけ付き合おう。
前を向いて、
風を感じて、
まばたきをして。
その風は、なんだか知らない匂いがした。