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夢を叶える方法【ヒロアカ】

第36章 ステレオ




私は、耳にかかっていた柔らかい紐にすっと手をかけた。

耳の裏に少しだけ触れて、ゆっくりと外していく。


みんなの声を遠くで感じながら、鏡のない部屋で私は眼帯を外した。


軽い。
軽くなった。


軽くなっただけ、心臓が痛くなる。


外した感覚を味わうのは一瞬だけ。
私は手早く箱を開けて、中のそれを手にのせた。


右目を親指と人差し指で押し開けて、
その小さな透明の円盤をおしつける。


水を右目に感じて、それから瞬きを何度かした。

その異物が私にだんだん馴染んでいく。


それから、前を向いた。



その世界に、私ははっと息をのんだ。


喉元から熱が広がっていく。
その熱は心地の良い刺激となって全身を巡った。


今まで見ていた世界とは、まるで違うのだ。


光が目に飛び込んできて、色が立体的に私を包み込んでいく。


美しくてたまらないのだ。

信じられないほど美しくて、心がそれについていかなくて。


しばらく棒のように突っ立って、それからはっと鏡をポケットから取り出した。

自身の顔をまじまじと見つめる。


そこにはあの野暮ったい眼帯姿の少女はいなくて、

両の瞳でこちらを眺めている少女がいたのだ。


私はまた驚いて、とととっと後ずさった。


これが私なのか。
私が、これなのか。


うれしいような

恥ずかしいような


恐ろしいような


手がなかなか言うことを気かず、鏡がうまくたためなかった。


『受験者は控室を出て___』


アナウンスに上を向く。
どうしてかいつもよりオーバーに動いてしまう体にやきもきしてしまう。


下あごの震えが収まらぬまま、私は集合場所へ駆けた。


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