第34章 〈番外編〉君は夏に微笑む
Side 緑谷出久
しゅわしゅわ
特有の音を立てて光の束はキラキラと輝いた。
日はとっくに沈んで今は夜。
微かに紫色の空を見れば、コレとはちがう光を西の方に見た。
花火。
芦戸さんが、おもちゃやのおじいちゃんに貰ったからと、大喜びでかけてきて、それでこういうことになっている。
皆はきゃいきゃいと花火を振り回して、残像でハートを作ったり、石を燃やしたり。
僕はそれを傍から眺めて、それで満足していた。
「ねずみ花火いきまーす!!」
「うぉー!!!」
そうやってわいわいするのを、ひよこちゃんは珍しく傍から眺めていた。
「ひよこちゃんは、いいの?」
「うん。いいの。なんだか、楽しすぎて……。楽しすぎて、不安になりそう。」
儚げにニコと笑うひよこちゃんは、少しだけ大人に見えた。
「花火、久しぶりだね。」
「うん。おばさんと、みんなと、よくやってたよね。」
「楽しかったね。」
ひよこちゃんの横顔が花火の光に照らされて、なんだかとても、幻想的だった。
おばさん
ひよこちゃんの大切なその人は、ひよこちゃんの中でいったいどんな存在なのだろう。
その時はそれがやけに頭に引っかかった。
「ひよこちゃんにとって、おばさんって…お母さん代わり、みたいなもの?」
なぜだか恐る恐るでたその言葉にひよこちゃんはいつも通り、優しく呟いた。
「ううん。違う。おばさんは、お母さんの代わりじゃない。」
「そう、なんだ…。」
「おばさんは…はなさんは、いつでも優しくて、明るくて、おうちのみんなのために、いつも一生懸命になってくれた。お母さんとは違う、私の大切な人なの。」
そう言い終わると、僕とひよこちゃんの花火は、同時にじっ、と消えた。
終わっちゃったね、と呟いて、
一緒に行こう、とバケツへと足を向けた。
ぽつり、と
「そんな大切な人を、今度は私が、守れるようになりたいの。」
と、そんな声が聞こえた気がした。
最後は皆で、線香花火をした。
ぷくぷくと輝く線香花火の小さな玉は、
ひよこちゃんに似ている、と思った。
ふるふると、なみだのように零れ落ちそうになって。
それでも必死に、過去も未来も夢も含んで揺れている。
そんな姿に思わず、
頑張れ
と、言葉が漏れた。