第34章 〈番外編〉君は夏に微笑む
「あーんどー!」
「うぁっ!」
元気な声が聞こえたと思うと、直後に背中にどしんっと重さを感じた。
声の主は、三奈ちゃん。
たこ焼きやわたがしで両手をいっぱいにして、頭にはなんとかライダーのお面をつけている。
「ほいたこ焼き!」
「へっほっ!?」
ぽいっ
と開けた口に、熱々のたこ焼きを投げ込まれた。
「はっふいっ!!!」
衝撃で破けてしまったパリパリの皮の中は、とてつもなく熱くて
まるで口の中に火を投げ込まれたみたいだ。
「あーもう!安藤!水水!!」
「ひょうひゃひゃはふっ!」
少しだけ滲み始めた景色にあの黒髪が見えて、私はたまらず助けを求めた。
響香ちゃんだ。
いつっも助けてくれるなぁ、なんてどこかで思いながら、手の中に入ってきたコップの水を一気に飲み込んで口の中の大火事を鎮火した。
鎮火の終わった口の中身を流し込み、ヒリヒリする舌をえーと出して三奈ちゃんに怒りをぶつけた。
だって、熱かったんだもん。
「あにふうー!!」
「ごめんごめん!ほら、今度はちゃんとあげる。ほれ食べる?」
「たべる…。」
出していた舌をぺろっとしまってむすっとしながら向き合った。
熱い思いをしたけれど、それでも食欲が勝って。
ずっと差し出されたたこ焼きを、今度はちゃんとふうふうして食べる。
たこ焼きはアツアツはふはふで。
その中には美味しいタコがはいってて
ソースの香りとマヨネーズの酸味
たまらなく美味しくて、思わずほっぺたを抑えてんー!と唸った。
「安藤ってさ…口に出さなくてもすぐ何考えてるかわかるよね。」
「うん。美味しそうに食べるよね」
「……」
口のなかはまだいっぱいで、もぐもぐと食べながら私はふたりの会話を聞いた。
コロッケおまけしてもらえた!
とか、
射的やった?
とか。
ふたりが楽しそうで本当に嬉しいな、なんてごっくんと飲み込んでそう考えていると、その会話は今度は私に飛んできた。
「ねぇ安藤。このお祭りってさ、花火あるの?」
三奈ちゃんのその質問に目をぱちくりとさせてから、ちょっぴり下を向いて首を振る。
「ううん、ない。」
「じゃあさ安藤!これ!みんなでやらない?」
三奈ちゃんがえっちらおっちらしながら取り出したのは、大きな袋、花火セットの袋だった。