第33章 A world beginning with you
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ガタンゴトン
ガタンゴトン
今日初めて乗った電車だった。
人が出入りする扉の前で、私はもう夕陽のない夕焼けを見ている。
宝石みたいな紫色の空に、一番星がキラキラ光ってる。
ちらほら見える家からも、暖かい光が漏れていて、上も下もキラキラ。
『安藤、ひよこ…です。お父さんに、会いに来ました。』
行った監獄……兼病院は、薄暗く、冷たい場所だった。
歩く職員さんの後ろを、両手を固く握りしめながら小走りで追った。
お父さんに、会うだけで。
お父さんの顔を、見るということだけで。
心臓は信じられないほど、跳ねるのだ。
『此処です。』
『…あ…りがとう…ございます。』
職員さんが立ち止まったのは、大きく分厚い扉の前だった。
職員さんが鍵を開けたのを確認して。
私は扉に手をかけた。
自分の目から見えるその手は、ガタガタと大きく震えていて。
私は大きく深呼吸をしてからぐっと力を込めた。
扉が開いて視界が開く。
その先に見えたのは、大きな黒と、異質な白だった。
ガタンゴトンの音を聴きながら、完全に夜になった景色を眺めていると、その先に見える星の光や家の灯がどんどん滲んでいった。
キラキラがもっとキラキラになっていく。
あの時見たお父さんは、記憶の中のお父さんと全然違ってた。
髪はショックで真っ白になっていて
爪はボロボロ、ゴツゴツ傷だらけで
あの、優しく撫でてくれた手じゃなくて
優しかった、大好きなあの目は
黒く濁って私を写してはくれなかった
でも、
『お父さん、お父さん…!』
なんどもなんどもお父さんって呼んだらね、
そしたら少しだけ、こちらを向いてくれて。
少しだけ、目が合ったんだよ。
嬉しかったな。
でも、でもね____
完全にぼやぼやになってしまった景色を何度も擦る。
頬はびしょびしょで熱くて。
もっと、ずっと、一緒に居たかったな
もっとたくさん、一緒に遊びたかったな
もっとひよこって、呼んでほしかったな
叶えられなかった想いに、私は初めて真っ直ぐ泣いた。