第31章 A world without you
Side 切島鋭児郎
足は止まらない。
人混みの中から飛び出してしまった俺は、一心不乱に彼女へ駆けた。
「きっ、切島くん!?」
「何をしてるんだ!!」
一緒に来ていた2人の声が聞こえる。
警官が止めに入る声も、ヒーローの困惑も、耳には忙しなく入ってくる。
それでも、止まれなかった。
ただ、彼女のあの檻に。
今は、あの子の隣へ行ければ、ほかはなんだっていいと思った。
バキンっ
と音を立てて俺は個性を発動する。
硬化っていう、地味で微妙な個性。
それを使って檻を壊す。
「安藤っ!!!」
檻の中で蹲っている安藤に、俺は声の限り叫ぶ。
その声に振り返った安藤は、
「っ…!!!」
必死に、俺に剣を振り上げた。
それを俺は“個性”で防いで、
それから俺は手を伸ばして、
安藤を抱き引き寄せた。
「っ…ぅぅう゛ぁあああああああ!!!」
「っ!」
腕の中で何とか離れようと、安藤は暴れる。
それを拒んで、そして、俺は声をかけた。
「過去になにがあったって関係ない!一緒にいたいんだ!!一緒にヒーローになろう!!」
ずっと伝えたかった、大切なことを。
そして、彼女の名前を呼ぶ。
「安藤……安藤ひよこっ!!!」
「っ…!!」
その名前を呼ぶと、安藤はピタリと動きを止めた。
「みんな、待ってる。もう一人になんてしない。」
「ひよこ。」
強く抱きしめれば、安藤の熱が伝わってきて。
安藤は、暖かくて、やわくて、
ちゃんと、
ここに居た。
「うっ…うぅっ……!」
安藤の叫び声はやがて泣き声にかわり、
赤ん坊のように、すがりつくように、俺の服を握りしめて涙を流した。
涙は熱くて、優しかった。
大切な大切な名前を呼びながら思う。
あぁ俺は、
俺の個性は、
この瞬間のためのものだったって。