第31章 A world without you
Side 切島鋭児郎
隣で苦しそうに声を漏らす緑谷の背をさすりながら、目はやはりあの少女の方へ向かっていた。
3人のプロヒーローに狙われながらもその少女は、
飛んで、
跳ねて、
反って、
走って、
躱して、
振り上げて、
軽々と身体を操っている。
その姿は、俺の知っている彼女ではなくて。
知っているあの子はどこにいるんだろうと考えると、自然に手に力がこもった。
いくらその少女の運動能力が高くても、ヒーロー3人に狙われればひとたまりもないようだった。
袖は引き裂かれ、さらけ出した脚の至る所から血が溢れだしている。血のしたたりは体から離れて宙に飛ぶ毎に赤い花のようにキラキラ輝く。飛んだそれはその手に集まり剣へと変わっていく。
そんなに血が出たら、貧血になってしまう。
そんなことを考えてもいない動きをする。
あの少女は。
俺の知っている泣き虫じゃない。
俺の知っている弱虫じゃない。
俺の知っている頑張り屋の彼女ではない。
そう思うと途端に心が震え、縮こまった。
寂しくなった。
俺の知っているあの子は、今この世界にはいないのだ。
彼女が居ないのが、寂しいのだ。
そんなことを考えた瞬間、あの子はガクンと膝を地につけた。
ヒーロー達の攻撃で、とうとう脚が動かなくなった様で。
下を向き俯く彼女の後ろ姿は、一瞬、俺の知っているあの子に見えた。
「行くぞっ!!」
ヒーロー達の掛け声が空間を震わせると、彼女はビクリと肩を揺らして、あの剣を地面へ突き立てた。
WHOMP!!
彼女の周りを取り囲むようにして、一気に現れたのは、“檻”。
彼女の血液で出来ているであろうそれは、光を反射し悲しく輝いていた。
全てを拒絶するような。
自身を守るような。
隠れるような。
戒めるような、檻。
それで視界がいっぱいになって。
その檻を壊さないと、きっと彼女は帰ってこない。
あの子には、アレを壊さないともう会えない。
って。
頭が、真っ白になった。
そんなふうに焦る心は、そのまま足に現れる。
ほら、よく言うだろ。
“考える前に身体が動いてた”ってやつ。