第28章 君に伝えたいこと
世界をつなぐのは、言葉だ。
私は、ずっとそう思って生きてきた。
特に、雄英高校に来てから。
一番初めの訓練の時、言葉をかけて安心させた。
体育祭の時は、人使くんと言葉で言い合いをした。
ステインさんからは、言葉でお話を聞いたし。
鋭児郎くんと、言葉で向き合った。
言葉は鍵で、方法で、優しさだ。
自分の世界を広げる鍵で。
他人の世界を汲み取る方法で。
自分の心を探る優しさだ。
言葉を交わせば、分かり合えると思っていた。
それは、正しかったんだ。
私は言葉を交わしたことで、彼らと世界が繋がってしまった。
言葉を交わすために、彼らの輪の中に迷い込んでしまった。
小さく、堅い、輪の中に。
きっと、抜け出すのは難しい。
その輪の中からは、みんなは見えなくて。
ただ、私も、何かできることがあればしたかったんです。
それが言い訳。
本当は、
私も、みんなを守りたかった。
私だって、誰かの誇りに、
誰かの“ヒーロー”に、
成りたかったんです。
そんな傲慢だったんです。
その結果、私は今、敵の輪の中に、入ってしまって。
固く握っていた指を解き、顔を上げる。
目の前には、大好きなみんなの“敵”がいて。
でも彼らは“人間”だった。血のかよった、触れればちゃんと暖かい、“人間”だった。
それで、私はどこかで思うんだ。
似てるなぁ、この人達と私。
違うところって、どこだろう?
人を傷つけてナイところ?
あれワタシ傷つけたじゃん。
それどころかワタシ、大切な人を見殺しにしたよね?
わざとじゃない?
ううん、世界は結果論。
「違う私……私、ここの人間じゃ…敵じゃ」
「じゃあ何処?お前は誰なんだよ。」
横から聞こえるその声に、私はビクリと震えた。
「私…は…。」
ジブンが誰なのか、もう分からなくて。
お願い。
誰でもいい。
『君は敵じゃない。君は、雄英高校の生徒で、1Aの仲間だよ。』
って言って。
「さて、安藤にやって欲しい事、のターンだな。」
隣の声は、高らかに、楽しげに喋り出す。
「黒霧、トバせ。」
「はい。」
その声と同時に、私の、ぐるぐるになった世界は真っ暗闇にのまれていった。