第23章 呪われ
「え……」
安藤の声が震えて、腕も震える。
さっきまで儚く揺れていた瞳が、ピキリと凍りつく。
安藤がいた世界が、安藤がいた次元が、全て凍りつく。
「いや……だ。言……わない…。」
捕まえた瞳が、するりと逃げた。
「俺は……ちゃんと受け止めるよ。」
安藤はいやいやと俺の腕を振り払おうとしていたが、俺は離すもんかと抵抗した。だって離したら、そのままどこかへ行ってしまうんじゃないかって、思ったから。
知って、力になりたい。
出来れば全部。
そんな強欲が、俺の中には芽生えていたんだ。
安藤は顔が沈み込むほど下を向いて、それで、“悲鳴”をあげた。
「いっ、いいかげんなこと…言わないでっ!!」
「え」
「鋭児郎くんにはっ!っ……言いたく…ないの……。」
「…どうしてだ?」
「だって……。ずっと友達で、いたいから……大切な…友達だから……。」
下を向いて懇願するように訴える安藤に、声が出なかった。
目の前で、安藤のいた世界が崩れ落ちていくのが分かる。
脆く、ガラスみたいに、粉々に。
安藤の腕を、その腕を離してしまえば安藤も粉々になる気がして、引き上げるように腕に力をこめた。その世界から、救い出すみたいに。
「…分からないから分かりたいんだ。安藤が、なにに苦しんでるのか。力に、なりたいから。」
「っ…!」
安藤は驚いた顔をして、そしてあわててまた目線を下げた。
安藤が時折、暗い顔をするのは知ってた。
その影に踏み入ってはならないと、なんとなく感じてもいた。踏み込んでは行けない領域、そういうルールなんだって。
でも今、こんな顔をした安藤を見て、思った。
こいつの影に踏み入りたい。
安藤は下を向いたまま、震える、か細い声で言葉を続けた。
安藤の瞳を捕らえることは、もう出来なかった。