第22章 must to be
「ひよこちゃん?」
「や、き、気にしないで?」
前を歩いている出久くんが私の心配をしている。
それもそうかも。片手でひさしをつくり、出久くんの体をあまり見ないようにしながら廊下を歩いてるんだもん。……恥ずかしくて。
「ひよこちゃん…。」
「ん゛ん?」
ちょっぴり声が裏返った。
ひさしの隙間から出久くんを見上げると、出久くんは私の方を振り返って、また苦しそうな顔をしている。
私は驚いて目を背けるも、おずおずともう1度見上げる。
「ひよこちゃんはさ……ヒーロー好き?」
「えっ、う、うん。好き。」
出久くんの口からは、出久くんらしくない疑問が零れた。
私はひさしを外して、真っ直ぐ出久くんに向き合った。
「さっきは、なんの話してたの?」
「…洸汰くんのこと。」
「そっか。」
「洸汰くんのご両親、ヒーローだったんだって。それで、殉職なさったって…。」
「……。」
あー、そうなんだ。って、頭は凄く冷静で。だからかぁって、頭で凄く納得していた。
なんて、言えばいいのか分からなかった。
だって、そんなの、なんて言うのが正解かなんて、分かるわけないし。
「そっ……かぁ…。」
「ひよこちゃんは……自分と重ねた?」
「なんで?」
「だって、ご両親……。」
「……違うよ。一緒にしちゃいけないよ。」
確かに2人とも、今は居ないけど。
彼は被害者で、私は加害者だ。
それにはきっと、天と地の差があるだろう。ヒーローか敵か。そんだけ違う。
「でも、ひよこちゃん…。僕には、」
出久くんは続けた。
「僕にはなんでも言ってほしい。」
ほぼ全裸で、彼は真面目な顔をしている。
髪びっしょびしょの私は、彼に笑顔を送った。
ヘンな状況。
そう思いながら私は彼にウソ笑いを送り続けた。
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「緑谷ー!なにしてうわぁぁあっ!!」
「おいどういう状況だ説明しろ緑谷!!」
「ひよこちゃん!どこにぁぁぁああああ!!」
「あ、安藤この状況は一体!?」
その後、出久くんは男子に、私は女子に連行された。
部屋ではいろいろと問い詰められたが、彼女らの望んだ回答をすることは無かった。
その夜は、出久くんのあの肉体美と、真面目な顔が目に焼き付いて離れなかった。