第22章 must to be
「どれ録画するんですか?」
「んーと、これ。」
「あ…うん。はい。」
部屋の中にお邪魔して、テレビのリモコンをポチリポチリと操作する。部屋の中はいっそう涼しくて、半袖短パンではちょっと寒くなっちゃうレベルだった。
勝さんが指差したのはVシネのちょっとアウトローな感じのヤクザ映画だった。勝さんの映画の好みを知るのは初めてで、ちょっと……見なかったことにしたかった。
「ごめんねひよこ!どう?お詫びにお茶でも!」
「あ、や、わっ!そんな!大丈夫!平気!平気です!」
お茶と言って光己さんは、お盆にカルピスのグラスをのっけてニコニコと部屋に入ってきた。
「いーのよ!飲んできなさい!入れちゃったしね!」
「あぁ、えっと、じゃあちょっとだけ……。」
入れちゃった、と言われてしまったら断るわけにはいかなくなってしまう。
ストンとその場に正座をする。
いくら昔からの仲とはいえ人の家だ。固くなってしまうし、グラスになんて、3分後くらいじゃないと手を伸ばせない。
「晩ご飯前に、ごめんなさい…。」
「いーのいーの!勝己まだ風呂からあがんないしね!」
その勝己くんが上がってきた時が私の安心できる生活の終わりだ。2人と一緒にまったりしたりおしゃべりするのは好きだけど、そんな、死と隣り合わせなんて、どんなチキンレースなんだろう。
「もっとやればいいのよ!全くスカッとしないわー!」
「まぁまぁ…。チャンネル変える?」
テレビに向かって文句を言う光己さんに、それを宥める勝さん。私はテレビと一緒にそれを眺めて、それから汗をかきはじめたグラスに手を伸ばす。
ここにいると、自然と心が綻ぶというか…。
そう、自分もだんだんまったりし始めながら、こくんとひと口カルピスを飲んだ。ちょっぴり濃いカルピスが心にしみる。
けど、そんな安寧の時間も、結構すぐに終結した。
ガチャ
そんな、よくある扉の開く音で。