第20章 醒めない夢
ジジッ
『明日はひよ__5歳の誕生日だよー。ワクワ__ちゃうね!』
『わくわくしない。た__ょうびね、わた___ないでほしい。』
『んー?どうして?』
『だっ__こせいま__ないんだもん。』
『大丈夫。きっ___キな個性がでる!だってひよこ____お父さんみた__個性がでるよ!』
お母さんが料理を作ってる。こっちは見てない。
たしか、いい匂いで、暖かかった。
ぼやぼやとした記憶の向こうに、その懐かしい姿が映っている。私は、その時凄く不安だったことを覚えている。
だって、お父さんみたいなヒーローになりたかったから。お父さんみたいなステキな個性が欲しかったから。
『そうかなぁ…。』
『うん!あっ、お父さん帰ってきたよ!』
ザザッ
『ただいまひよこー!』
『おとーさん!』
ジジッ
だめ、これ以上は。ダメだ。
これ以上はもう、
「見たくない」
そこからの記憶には、両手で目を塞がなくちゃいけない。
記憶の映像がぐにゃぐにゃと歪んで、それでも色濃く映るのは黒。
黒と、黒に限りなく近い赤。
その上に、白い花弁が浮かんでいる。お母さんの大好きな花。
『おか、あさ、ん?お、とうさ、ん…?』
痛い。
「目を塞がなきゃ」
ずっとそうしてきた。
逃げて、見ないで、背を向けて。
だって、そうすれば楽だった。
もう全部自分が悪いんだってことにしよう。
だってそうだよね?全部私のせいだもんね。
お父さんにも、もう“会わない”ようにしよう。絶対に。
もう、思い出さないようにしよう。
カラッポだって、ことにしよう。
それで私は、下を向いたまま歩いている。
心の中にドロドロを隠したまんま。
それでいいと思ってる。それがリアルでそれが社会だ。
でも最近、困ってるんだ。
そのドロドロが溢れてくるの。邪魔しちゃダメなのに。みんなの邪魔なんて、したくないのに。
上手く目を塞げなくなって、
それで私、また迷惑かけちゃった。