第18章 あなたは特別な人
「そうだ!今日の試験、お疲れ様でした。」
「今更なんだよ。」
「言い忘れてたなって。」
大分薄くなって、あともうちょっと、というところで、お疲れ様を言っていなかったことに気づいた。
「てめぇ落ちたらしいな!ハッ!ざまぁ」
「あ…あはは……。」
そして、まだ謝っていないことにも気がついた。
明日の朝、ちゃんと謝らなきゃな。
そして、また質問する。
こんなふうに普通に会話できる時なんて、滅多にないから嬉しくて。
「……勝己くんはさ、最高のヒーローって、どんな人だと思う?」
「…最後に勝つのが最高のヒーローだろ。」
「そっか。」
ちらっとステインさんの顔が浮かぶ。あの人の考えと、丸っきり違うんだ。
いろんな考え方の人がいる。答えなんてないんだなぁ、なんて思ったりして。
「……いつだって優しくてそばに居てくれるヒーローも、素敵だよね…」
「……あ?」
勝己くんは変な顔をしてこちらを向いた。ティッシュが口に入りそうになった。
「う、動かないで、あんまり…。」
もう、みんなあんまり覚えてないのかな…。
お父さんのこと。
忘れないで、欲しいな____
「終わったー!!」
「…良し。」
ゴリゴリに凝った肩をトントンと叩く。なんかものすごく時間かかった。
勝己くんは、鏡を見て自分の顔を念入りに確かめていた。
「終わったからもうお帰りに……」
「あ?これで済むと思ってんのか?」
「え……?」
勝己くんがおもむろに手の油性ペンを見せてくる。まさか…
「明日の朝覚えとけよ…?」
「ひっ………覚えときま……すん…。」
「あ?」
「…すん…。」
またあの強烈な敵顔をされ、私の背筋はピキンと凍った。
勝己くんはそのまま帰っていったが、私はその日、恐怖で全然眠れなかった。