第10章 正しき社会、幸せな社会
「天哉くんが、どれだけお兄さんのことを大切にしていて、どれだけ優しいのかの証明だよ。きっといつか、それは自信になる、と思うんだ。こんなに大切なんだぞって。だから、その、大切にしていたってことは、恥ずかしいことじゃない、から……」
私は、自分の言葉を紡ぐのに必死になっていた。ハッと我に返ると、みんながしんとしている。
やばい。やっちまった。
「あっ、あのあの、あっ私なんかのしょうもない話です!やっ、やっぱり気にしないで!」
「いや……。証拠…か…。」
「安藤、そんなこと考えてたのか……。すげぇな。」
「ひよこちゃん……。」
顔が下から順に赤くなっていく。
私の、経験談なんだ。私も大切な人を、失ったから。だから凄くもなんとも……
「ほ、ほんとにやっぱり、きにしないで。」
「ううん。大切にするよ。安藤くんのお陰で心が救われた。ありがとう。」
天哉くんは、真っ直ぐそう答えてくれる。
彼の心からの言葉に思わず頬が緩んだ。
「あ……。ふひひ。嬉しいなぁ……これで、おあいこだ。」
天哉くんは私の、恩人なんだ。こんな形でも彼の心を救えたのなら、それはこの上なく嬉しいことなんだ。
「ずっと、天哉くんに恩返ししたかった。……私、初めて雄英に来た時、すっごく不安だったの。その時、天哉くんが1番最初に声を掛けてくれて。」
世界がぱあっと明るくなったみたいだった。
私も君に、こんなにも救われたんだよって、伝えなきゃ。
そう思うのに、言葉はうまく口から出て言ってくれなかった。
「そうだったのか。」
「……ありがとう。すごくすごく、嬉しかったんだよ。」
「そんな……。いや、こちらこそありがとう。僕は良い友達を持ったな。」
「でも、お願い。もうあんなこと、しないでね。一人で何とかしようと、しないでね。」
天哉くんが、笑ってる。最近見れなかった、天哉くんの本当の笑顔。取り戻せて本当によかった。
友達……。
そうだ。私まだ、大切なことを伝えていない。
轟くんに。