第1章 深夜、炭酸ジュース
気だるい気分だった。
喩えるならグラスに注いだ炭酸ジュースを放置して、氷が常温に溶けて混ざって、パチパチとした刺激が消えてしまった液体のよう。温く薄い液体は、口に含んでもただの液体。
なくなってしまった刺激を、大切な思い出を懐かしむように、恋焦がれる。
暗い部屋で聞こえるのは時計の針の音と、隣に居る彼の静かな寝息。
眠っている彼の安らかな顔を覗き込む。先程まではあんなにもお互いを貪り合っていたのに、今の私は空虚な想いでしか、彼を見つめることが出来ない。
愛してるという言葉。恋人同士、夫婦や家族など、親密になれば使う言葉であるが、なんというか、改めて考えてみるとよくわからない。
彼には愛してる愛してるあいしてると幾度も伝えてきた。
しかし、よくわからない。
よくわからないくせに口に出すのは安易すぎたと思う。
愛してるから、何だというのだ。恋愛をしてみて考えた。
相手を好きになって、相手を求め、お互いに好き合えば距離を縮めて愛を営み、やがて体を重ねていく。
そんな一般的な恋愛をしてみたが、気がつけば疑問が生まれていた。
愛し合う、それに何の意味がある? 動物たちは子孫を残すべく交尾をするだろう。人間だって動物だ。同じではないのか? 恋だの愛だのを、どうして付加する必要がある?
時計の音は規則的なのに、彼の寝息は不規則だ。耳を澄ませているとなんだか居心地が悪い。
彼がううんと唸って寝返りを打つ。毛布が肌蹴たので、私はそれをそっと直す。心なしか寝顔が嬉しそうに見えたが、いまは微笑ましく思えることはなかった。
すやすやと眠る彼に、愛してる、そう呟いてみたが、なんだかちぐはぐだ。
別に、きらいではない。きらいというか、厭ではない。
たぶん、好きとか愛してるとかいうものとは違うだけなのだ。
人肌が恋しい。それだけなのかもしれない。言葉の通り、人肌の温もりを知ってしまって、離れ難くなってしまっただけ。ただ、それだけなのだろう。
彼と同じように毛布を被った。彼の匂いと自分の匂い。ひとの匂いがする。彼はきっとこれに安心して眠っているのだ。
目を閉じると眠気はすぐさまやってきて、知らないうちに意識が飛んだ。
明日はパチパチとしたコーラが飲みたい、なんて思いながら。
fin