第8章 二人の昇進と二人の進歩
「情けなくなんかないよ、裕は。」
私は少しだけ顔を上げて彼を見つめた。
仕事には厳しく、時に怒られたりもしたが仕事には信念を持っている人だ。
部署に来たばかりの時は本当に[嫌い]で仕方がなかったが、それは自分が仕事に対する気持ちが中途半端であったことを表していたんだなと今なら思う。
「突然、有給とってなんの予告もなく旅行にいって、ごめんなさい。」
心配をかけたことに謝った。
すると裕は私に微笑む。
「次、行くときは置いていくなよ。俺のこと。」
そう言う彼の姿は会社で見るのとは全く違う、優しい笑顔をしていた。
この笑顔を見れるのは私を含め、一部の人間しかいないのだろう。
「うん、もちろん。」
私はそれに笑顔で返す。
そしてここから私たちの関係は大きく動き始めた。
「由架。お前に昇進話が来た。」
「え?」
突然のことに驚く。
「詳しくは座って話そう、少し長くなる。」
そう裕は言うと私から離れ、ポットのお湯を沸かし始めた。
私はいつも通りテーブルの前に座る。
けれどどことなくそわそわしてしまって。
裕がお湯を沸かしている間が長く感じてしまう。
私は部長としての裕を仕事ができなくなってしまうのだろうか。
彼の仕事している姿も好きになった理由の1つだったからこそ一緒に仕事ができなくなってしまうのは寂しい。
けれど自分が昇進できるかもなんて思ったことはないし、今の部署に移動になったときも衝撃的だった。
仕事がよく回り、いろんな部署の前線にたつ部署が今私と裕がいる部署だ。
確かに、後ろから手を回してここに引っ張ってきてくれたのは裕だが流石の彼でも人を昇進させるほどの力は持っていないはずだ。
だから自分の力で昇進のきっかけがつかめたことは私にとって嬉しくもあった。
正直、話を聞く前から断りたい気持ちと受けたい気持ちが半々になっている。