第12章 上司と部下の張り合い
「ごめんなさい。」
わたしが謝ると
「ありがとうございました。」
と深き頭を下げた。
「なんで、謝るの?」
私はそう聞く。
すると、
「あなたにいい恋愛をさせてもらったからです。いい経験になりました。」
と笑顔で言う。
その笑顔はどこか、振り切った表情をしていた。
「それじゃ、僕はここで。気をつけて帰ってくださいね。」
彼はそう言って去っていってしまった。
彼はとてもいい人で、素敵な人だった。
仕事もできて、気も使えて。
それに比べれば裕の方が不器用かもしれない。
けれどそれでもなぜか、彼がいいのだ。
彼が愛しい。
だから彼をもっと大切にしようと、改めて思えた。
その日、私はかなり前向きな気持ちで家路を目指した。
これから起こる出来事をなにも知らずに。