第10章 初デート
「…実は来月転勤するんだ。」
彼は私に少しだけ言いにくそうに言う。
「だから、君ともこの町ともこれでさよなら。多分、二度と会うことはないよ。」
そういう彼に私は
「何でそんなことを言うの」
というが自分でも彼が何故そう決めたのかはわかっていた。
「もうどれだけ俺があがいても、君は俺のところに来ない…だから、この町にこのまま住んでいても生殺しにされてるだけなんだよ…」
彼は少しだけ憂いな表情を見せる。
「ほら、人間ってわがままだから。今は由架を見れるだけでいいっておもうけど、見てるだけが続くと次は声が聞きたいって思うし、声を聞いていれば話したいって思う。話せば触れたいって思うし、触れれば自分の物にしたいって思うんだよ。」
彼はずっと私の方を見ず、外を眺めながら言った。
「けれどね、どうあがいても君の心は俺のものにはならない。それにもし、何かしらのまぐれで一緒になれたとしても君は幸せにはなれない。俺は、君の幸せを壊すくらいなら自分が嫌でも、苦しくても、離れようって思えるくらいには君が大好きなんだよ。」
客観的に見ればその言葉は果てしなく重い。
けれど、私には何故か不快に感じなかった。
「そっか…変なことを言ってごめん。」
私が謝れば彼は「謝ることじゃないよ?けれどありがとう。」という。
彼はどこまでお人好しなのだろうか?
私は何故こんな人と一時でも付き合うことができたのだろうか?
けれどこんな人がどれだけ好き好んでいてくれていても、私は何故か不器用で、口下手な裕を選んでしまう。
世界は残酷だ。
私が呆然としていると彼は「さよなら、ありがとう。元気でね。」と言葉を残し、店をあとにしていった。